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ドラマ『TRICK2』考察〜認められなかった者達に妬まれたカミヌーリ〜

tamaki-trick.hatenablog.com

↑前回記事

S2の理解

S1は霊能力者1人1人が奈緒子に影響を与えていましたが、S2はエンタメ作品としてのキャラ立ちが重視されているように思います。小ネタだったりパロディであったり上田と奈緒子の掛け合いであったり、キャラクター達を楽しむという要素がかなり強いという理解でいます。そのため今回は奈緒子と霊能力者の関係性についての検討はせず、最終話に行くまでの上田と山田の関係性について触れ、最終話の妖術使いがなんだったのかについて考えます。

そしてS1では①自分が霊能力者に殺されるかもしれないという恐怖と②自分は霊能力者かもしれないという恐怖を背負っていた奈緒子ですが、S2では①の要素はほぼなくなったという印象です。それは奈緒子が様々な偽霊能力者に出会ううちに、本物の霊能力者なんてほとんど存在しないことを知ったため①を心配する必要がなくなったということが理由の1つだと思われます。

 

ep.1 六墓村

(1)雑感

36歳(?)で教授になった上田。教授になるのは並大抵のことではないので、非常に運がよくて非常に優秀。村に出向いてその体験を本に書いたりテレビに出たりしながら本業である物理学の研究論文を結構ヒットさせていたことになる。上田次郎すごい。それから、里見が文字の力商法を展開し始めている。とんでもない金額なんだけど、それを信じて人が集まってきてそれなりに成功しているならもはやそれは才能。S2から全面的に「文字の力」を強調してきたのは、おそらく霊能力を否定する奈緒子と不思議な力の存在を肯定する里見をわかりやすく対比するため。

(2)上田と山田

S1は結構あっさりしていた関係だったけれど、S2はお互いにかばうシーンがep.1から多い。ちょっとした仲間意識が芽生えている。例えば亀岡に上田がいびられてへこんでいる上田のために手品を披露し、亀岡に「あなたは落選する」と言う。これ多分S1奈緒子だったら同じ状況になってもやらなかったと思うんですよね。上田の方も、奈緒子が寝ぼけていたんじゃないかと言われた時に「彼女の言うことはほぼ確かです。私もさっき部屋の外で怪しい影を見ましたからね。」と言う。とはいえ、せっかくかばってくれたのに「上田教授はまた気絶されたのでありますか。」とへし折る奈緒子。協力してお互いを助けるのかと思いきや、わらしが淵では洞窟の酸素を我先にと消費し合う。一筋縄ではいかない。

今回初めて2人で旅館に泊まることになった上田と奈緒子(S1 ep.2では矢部もいたので2人ではないとカウント)。同室にしないと2人の会話シーンが撮れないからこういう形にしたのだとは思うのだけれど、男女が2人で同じ部屋に泊まるという状況を変に意識させないところが非常に上手いなと思った。部屋のグレードに文句を言いこそすれ同室であることについて文句を言わせないことで、付き合ってもいない男女が同室に泊まるという状況を視聴者が結構すんなり違和感なく受け入れられる。この2人の面白さって、かなり自分勝手な人間同士が何だかんだ言いながら行動を共にしている、という点にあると思うんですよね。だから一緒に部屋に泊まってちょっと緊張する描写とかを入れて恋愛っぽく見せてしまうと、その凸凹具合の面白さが薄れてしまう気がする。

ただ、劇1あたりから結構分かりやすい好意の匂わせがあり、S3最終話の上田の発言、その他公式出版物や中の人のインタビューはシリーズを重ねるごとにラブの要素を結構許容しているところがある。そのため、私がここで言っている2人の面白さはS2 ep.1時点での面白さということにしておく。

(3)美佐子と奈緒子を重ねていたのはなぜだったのか

境遇が似ているというわけでもないし、これは何でだったんだろうか。ロングスカートばかりかご丁寧にカバンまで似せていたし。奈緒子と重ねることで、美佐子の顔が仲間由紀恵さんばりに美しかったんだと想像させるためだったのかな。映像トリックというか。平蔵さんが大好きな顔なんだからこっちがどうこう言う問題でもないのでこれくらいにしておく。

 

ep.2 100%当たる占い師

(1)雑感

これは結構上田と奈緒子にとっては傷の残る回だったんじゃないかと思う。自分たちがパフォーマンスをしなければ占い師は死なずに済んだかもしれないから。

(2)上田と山田

結局終始奈緒子が上田を心配することによって話が展開していくから、ちょっと間違えると男女バディなだけにテイストが甘くなりがち。奈緒子は、上田の大学に連絡し(やむ落ち)、矢部に連絡し、吉子の屋敷に出向いてまで上田を探しに行く。極めつけには本人にも「心配してたに決まってるじゃないですか」と伝える。上田の方も奈緒子のピンチをここぞというときに救ってくれる。

ただ、上田が隠れていたのは奈緒子を救うためではなくて「いざというとき自分だけ逃げるため」(真偽のほどは不明)だし、奈緒子は夢のお返しとして上田にパンチを食らわせる。何事もなかったかのようにカラッとした印象にするこのバランス感覚がちょうどよかった。2人の双方に対する信頼の無さ加減(良い意味)はちょっと心配されたくらいでは揺らがない。

 

ep.3 サイ・トレイラー

(1)雑感

奈緒子大活躍回。光源トリックとか上田が解決してもよさそうなのにことごとく奈緒子が解決していく。おそらくすべてはラストの「あなたは優秀なサイ・トレーラーでしたよ。」のためだと思われる。

「ゾーーー↑↑ン」を見たときトリックシリーズでも上位に入るふざけだなと思ってちょっと苦手だったんですが、よくよく考えればすごくかわいそうな人で、ふざけてるって思ってごめん…となった。

(2)上田と山田

特筆することはない。しいて言えば奈緒子は上田との関係性を「腐れ縁」だと思っていることが冒頭判明する。(追記するかもしれない)

 

ep.4 天罰を下す子

(1)雑感

今回は上田と奈緒子が一緒に1つの事件を解決するのではなくて、2人が追っている別々の事象がつながって解決した初めてのパターン。ep.3冒頭の願掛けの効果はなく、むしろ「腐れ縁」が強まったのではないかとすら思う。そして恵美を守るためとはいえ奈緒子に天罰を下すよう頼んだ上田、だいぶひどい。それを怒りはするものの次の回では何事もなかったかのように許している奈緒子、懐が深い。

それから、こういうちょっとしたところから暮らしや性格が見える感じ好き。

(2)上田と山田

奈緒子の名前を書いてしまった罪悪感から差し入れを用意したり、危なくないように留置所に入れたり、扱いはひどいけれど大事じゃないわけではないんだなというのが分かる。ずいぶんな荒療治ではあるけれど。この回はこれからにつながる上田と奈緒子の描写があったなと感じた。

「笑顔が可愛くない女が必死で練習しているのを見ていたんだ。」(やむ落ち)

部屋で1人鏡に向かって笑顔の練習をしている奈緒子が、上田が部屋に入ってきたことに気付き振り返ったところでのセリフ。上田が奈緒子の笑顔について言及するのは全シリーズ通してここだけ(多分)。ラスステの「上田が好きだった奈緒子の表情」(公式発言)が流れる時、ここのシーンが使われているところをみるに、上田は「あの可愛くない笑顔が好きだった」んだなと解釈して非常に苦しくなった。

 

「それは私の腹巻ではない。君のおばあさまの腹巻だ。」

上田は御告者の少年の周りの人間が犯人だとすでに見当がついていたので、「霊能力の証明のためにまさか自分を殺すことはしないだろう」という考えで腹巻を選んだんだと思うんですよね。この思考回路はS3 ep.5の奈緒子と非常によく似ている。正反対の2人だけれど、どことなく通じ合っている2人。嫌な奴だし気が合うわけでもないのに2人が一緒にいるのはこういうところにあるような気がした。

 

ep.5 妖術使いの森

これを整理するためにこの記事を書いていると言っても過言ではないので丁寧にいきます。来さ村の妖術使いの伝説については、村長のつぼ八横流し隠しのために所々伝説がでっち上げられているかもしれないので、基本柳田黒夫先生の説を重視する。

(1)妖術使い関連の疑問

妖術使いとは何なのか

120年前、南方の島を追われた者(妖術使い)が来さ村にたどり着いた。ちなみに力を持っている者全員が島を追われたわけではないので、その南方の島にも力を持ち続けている人間は存在する。これが黒門島で大事にされてきたシャーマンの家系なのだと思われる。南方の島の関連資料として上田が手に取った本の表紙に「焛」の文字があったので、南方の島とは黒門島のことと考えて差し支えなさそう。

ちなみに、来さ村の伝説によれば「不思議な技で金品を巻き上げたため村人たちは妖術使いを森に追い込み殺害。ところが妖術使いはその不思議な力により生き返り、今でも森に棲んでいる」ということになっているけれど、椎名桔平の顔をした妖術使いも小松も「生き残り」「子孫」という言葉を使っているため、ずっと生き返りながら生き続けているというよりも、迫害された事実を後世に語り継ぎながら本家への恨みを貫いている集団だと思われる。

そもそも椎名桔平の顔をした妖術使いはいるのか

椎名桔平の顔をした妖術使い」は長いので、以下「椎名桔平」と書きます。

冒頭、里見のもとに現れた妖術使いは仮面をかぶっていた。そして奈緒子が幼少期見た妖術使いも映像を見る限り仮面を取ることはしていなかった。

「久しぶりだねぇ、忘れたわけじゃないだろう」

と森の中で椎名桔平に話しかけられた時、仮面をかぶった妖術使いの記憶と椎名桔平を結び付けるようなカットになっていて、てっきり幼少期の奈緒子は仮面の中身を見たのかと思っていたけれど、回想中の妖術使いは腕を動かしていただけで仮面を取る動作はしていなかった。今回の話、奈緒子が見るものがほとんど椎名桔平なってしまっているので、奈緒子が見た顔に関してはあんまり信用できないんですよね。そして奈緒子が幼少期聞いていた声は椎名桔平だったけれど、S1で次男三男に騙された時は幼少期の曖昧な記憶を利用されて騙されたので、声に関しては記憶を都合よく書き換えてしまっただけで真実ではないかもしれない。

じゃあ上田を探しに行く森の中で出会った椎名桔平は誰だったのかという話になるんだけど、これは本物の妖術使いだったんだろうなと思っている。小松ではなく本物の力を持った妖術使い。奈緒子が木の枝を振りかざしたらホノグラムのように消えてしまったのは普通の人ではないよ、という演出だったのかなと思うなど。とはいえ、最後小松の顔も椎名桔平に見えていたから単純に小松だという可能性も全然ある。声が椎名桔平だったことに説明がつかないけれど。

「これも椎名桔平そっくりだ」

「どこがじゃ、どうかしちゃったのか」

色々考えたけれど、この会話が椎名桔平についての正解なんだと思う。上田が言う通り奈緒子はどうかしちゃってた(雑)。だいぶ考えたんですが全然わかりませんでした、気にしなくていい事なのかもしれない。

黒津分家とカミヌーリの理解

シリーズごとにちょっとずつ役割が変わってきているのでまとめておく。

【S1】

黒津分家→財宝を手に入れ島を乗っ取ることが目的。カミヌーリである奈緒子は利用価値があるから連れてきたが、最悪居なくてもいい存在。ただ、一応島の守り神として大事ではある。

カミヌーリ→島の母であり守り神。

【S2】

黒津分家→里見さん(=カミヌーリ)とは敵同士

カミヌーリ→S1と同様。しかし今回カミヌーリは島にいることを許された一部の存在であり、120年前島を追い出された者たちから恨みを買っていることが判明。

 

(2)小松と山田

小松の暴力性

上田が嘘をついているかどうか調べるなら上田に手を入れさせればいいのに、小松は奈緒子に手を入れさせるんですよね。「(上田に手を入れさせるより)もっと面白い方法があるわ。」と言って。小松が犯人だと分かっている柳田が、奈緒子の手を焼くはずがないと思っていたとしても、奈緒子の手を岩に入れさせる行為そのものが奈緒子をひどく傷つけることを小松は知っている。

どちらにせよ奈緒子にとっては絶望的な結果にならざるを得ない。奈緒子は「妖術使いは自分の仲間だから私を傷つけるはずがない」旨の発言をしていたけど、危なすぎる賭けだったと思う。妖術使いは同じ島の出身というだけで味方とは限らないとS1の時に痛いほど知っているはずなので。それだけ自暴自棄になっていたということなのか、本気で上田のためなら手なんてどうでもいいと思っていたのか。

小松が奪い取りたかったもの

「あなたのお母さんとは敵同士というわけ。あなたのお母さんから大事なあなたを奪い取りたかった。」

①敵同士とはどういうことか、②奪い取るとは何かについて考えたい。

①「敵同士」について

小松は120年前に島を追われた者の子孫なんですよね。近代化の波によって不思議な力(=霊能力)を持つ人間たちが迫害された。しかし、黒門島にはカミヌーリという存在が許容されている以上、そこには「認められた霊能力者」と「認められなかった霊能力者」がいたということになる。ここで言う「認められない」というのは霊能力が偽物だと思われたというより、「その力を持って島にいることが許されなかった」という意味。妖術使いとして来さ村に来た黒津分家(以下「妖術使い」)は、「認められなかった霊能力者」であり、「認められた霊能力者」であるカミヌーリを憎むしかなかった。だから、カミヌーリである里見とは敵同士であるということになる。

②「奪い取る」について

命を奪い取るんだったら早々に奈緒子を殺してしまえばよかったはずなので、「奪い取る=殺す」ではなさそう。里見は、こういう妬み嫉みも含めてカミヌーリの血を断ち切りたいと思って島を逃げ出したと思うんですよね。でも、妖術使いはそれを許さなかった。自分たちの受けた屈辱の怒りをぶつける場所が無くなってしまうから。里見の娘である奈緒子を霊能力者の側へ引き込むことで、妖術使いはその憎しみをぶつける先が生まれるし里見を苦しませることで復讐もできる。「奪い取る」とはそういうことなのかなと思った。妖術使いの「おいで」というのも「(霊能力者の側へ)おいで」ということなのだろうな。

(3)上田と山田

奈緒子の自己犠牲

「妖術使いを見つけてくればいいんですよね。」

妖術使いを見つけない限りこの森から出られないし、みんな殺されてしまうかもしれない。じゃあみんなのために自分が、という考えだと思われる。

TRICK最終回には自分の出生に向き合うのは恒例なんだけど、S1で奈緒子が霊能力者に甘んじようとしたのは自分が父親を殺したと信じ込んだから。「島を救ってくれ」という依頼もあったけれど、自暴自棄になって「どうでもいい」という気持ちが強かったと思う。ただ今回は「上田を助けるために自分が心を読む岩に手を入れる(妖術使いの仲間であることを利用)」「みんなのために妖術使いを見つける」という、誰かのために自分の力を使うという意味合いが非常に強い。この姿勢がS3で箱を開ける行動につながるし、ラスステの行動につながっていく。奈緒子の自己犠牲を厭わない精神はここから始まっている気がする。

ヒーローとしての上田

「霊能力は存在しない」と奈緒子自身の考えを全肯定してくれるだけではなくて、たとえ自分が霊能力者であったとしても上田の存在そのものが奈緒子にとっての救いになってきている。

 

「上田さんの顔まで椎名桔平に…」

「よく言われる、心配するな。」

字面が死ぬほどふざけて見えるけれど結構なシリアスシーン。奈緒子の言っていること普通に考えて意味が分からないし、前半では椎名桔平でボケ倒してい(るように見えた)たので、心を読む岩の時と同様「どこがじゃ、どうかしちゃったのか」と返してもおかしくないはずなのに、迷わず「よく言われる」と返せる上田。奈緒子のピンチを見逃さないし取りこぼさない上田。奈緒子がこれから先も自分の不安を上田には話そうとするのはきっとこういうところにある。

仮に上田が「椎名桔平がかっこいいから似ているということにしておこう」という思考で「よく言われる」と言っていたとしても、奈緒子にとってはそんなのどちらでもいいことで。ただ自分はおかしくない、普通なんだと安心させてくれさえすればそれでいい。

 

そして森の中で眠る奈緒子に上着をかける上田のシーン

結構ラブが強かったここのシーン。初見時「あれ?上田そういう感じ??」となった。ただ、やむ落ちではこの後残念過ぎる対応をする上田と冷ややかな目をする奈緒子がいる。恋愛フラグがへし折られていた。

最後の手紙

「これ、後で開けちゃいますけど、いいですよね。」

「もちろんだよ。」

こう言いながら開けるのを踏みとどまる奈緒子と本当に開けちゃう上田。

これは奈緒子が上田に好意(恋愛)を寄せているとすると、ラスステが辛過ぎて見られなくなってしまうので自己防衛本能でしたツイート。

奈緒子って占いの雑誌見るし願掛けもするし、そういう点ではこういうおまじないみたいなもの人並みには信じてるんですよね。自分の霊能力云々は置いておいても。でも、上田の方は信じないこともないけれど、所詮科学的根拠はないでしょうくらいのスタンスでいる。S1で里見に奈緒子には力があると言われても「僕は信じませんよ、この目で見るまではね」と言う人。仮にこの手紙の力が本当だったとしても、上田は奈緒子に会えなくなって初めて「あぁあれ本当だったんだ」って思いそう。

まぁ里見は2人を再び出会わせる手紙のおまじないとして「開けたら会えなくなるから開けちゃダメ」って言ってるんですよね。そうやって言えば上田は開けるし奈緒子は開けないと分かっているから。上田は奈緒子を探しに行くはずだから。瀬田くんがいくら頼んでも奈緒子に会わせもしなかった里見が、頼まれてもないのに上田と奈緒子を再会させようとするの、瀬田くんが気の毒になってくる。元気かな彼…