たまき

ドラマ、映画感想をゆるゆると

ドラマ『TRICK』第1シリーズ考察~山田奈緒子が背負ったものとは何だったのか~

はじめに言っておきます。この記事は非常に長いです。そして、私自身がTRICKラストステージを考察するための思考整理・確認としての意味合いが強い記事であるため、これを読んだだけでは当然TRICKの内容は分かりません。目次をはっておきますので、好きな所だけ読んで楽しんでいただければと思います。

 

はじめに

TRICK、名前だけは知っていたもののキャストも内容も全く知らなかった。このtogetterを見て初めて「あっTRICKって男女コンビなんだ…」というレベル。

 

togetter.com

「恋愛要素はないが、時折ほんの少し好意を仄めかす描写」は大好物なので、じゃあ見てみようかな~というのが視聴のきっかけ(2021年7月上旬)。下心ありありの状態で視聴を開始したのだけれど、正直ここまでハマると思っていませんでした。せっかくだから熱が冷めないうちに感想を残そうということでこのブログを書いています。

その前に保険というか弁解が1点。

TRICKは大好きですし、今まで見てきたドラマの中でも上位に入るのですが、TRICKをこの世の最高傑作のドラマだとまでは思っていません。だから本気のファンの方から見れば熱量が足りないかもしれない。

私がこの作品を好きでいる大きな理由として「上田と山田が互いの人生に与えた影響の描き方にブレがない」点が挙げられます。このドラマへの入り口が「上田と山田の関係性」目当てというのが多分に影響しているでしょう。ちなみに小ネタ・パロディに関しては世代の問題もあり元ネタがほとんど分からず、パロディなのかオリジナルなのかの区別がついていないため、その点についてはあまり面白さがわかっていません。絶妙にシュールな世界観がこの小ネタによって作られているな程度の認識です。そのため、その部分に面白みを見出して楽しんでいる方にとってはこの程度の感想か、と思う項目も多いかと思います。そこは流してやってください。

ただ、この作品がこんなにも多くの人から愛されるのは、コメディー・ミステリー・ヒューマンドラマの要素のどれか1つが突出しているのではなく、それら全てが絶妙なバランスで組み合わされているからという点に間違いはないでしょう。ヒューマン要素については、勧善懲悪では拭いきれない現実の厳しさが上田と山田のエゴによって露呈するという、時に残酷でさえある上田と山田の真っ直ぐさも斬新。お涙頂戴では終わらない現実。絶対的ヒーローではなくむしろ見方によっては悪魔的でもある主人公。この世界観にどっぷりハマりました。

本文を読む上で重要ではないことですが、文字並びが綺麗なので「上田と山田」と目次では表記します。ただ山田のことを私は「奈緒子」と呼んでいるので本文中では「奈緒子」と書きます。

 

構成理解

トリックシリーズ1(以下「S1」と表記)の構成理解はこんな感じ。

ep.3に関しては、公式のシナリオ本を読んでいた時に、美幸との決着のつけ方が脚本段階と放送されたものとにかなり違いがあったので認識が変わりました(ep.3のパート参照)。

 

ep.1 母の泉

(1)雑感

ラスステまで見たら涙なしには見られない母の泉。

上田がもし自分が戻ってこなかったら…といった時、「私だけ逃げます」「警察に連絡」を繰り返し被せてきたのが本当に最高だった。どこまでも1人と1人でバディではない2人。2人で助かるというよりまず自分が助かるにはどうするかを考える2人。とはいえ、何だかんだいいながら一応心配はするという絶妙な距離感はどのドラマにもないこの作品ならではの空気感がある。

展開としては上田と奈緒子が出会い、知恵と力で美和子さんを助けたかと思いきや美和子さんは殺されるという。これが結構衝撃で。普通主人公たちの元に行けば大体助かるじゃないですか。あるいは主人公達が何とか戦うけど守れなかった挙句殺されるという。このドラマは主人公達に手も足も出させずに「呪い」(便宜上こう呼びます)が実行されたんですよね。そしてep.2 ep.3と続いていくにつれて、「偽物だろうが本物だろうが霊能力者のかけた呪いは確実に実行される」というのがこの作品のルールだと視聴者も理解していくわけです。

(2)ビッグマザーと山田

ここで意味を持ってくるのが

本物の力を持った霊能力者(中略)はいずれあなたの前にも現れますよ、あなたはその人に殺される

というビッグマザーの最期の言葉。霊能力を否定しながらも「もしかしたら殺されるかもしれない」という不安が奈緒子の中に植え付けられたわけで、以降の奈緒子の行動に大きな影響を与えることになる。行く先々で超常現象に出会うたび、奈緒子の心のどこかに不安を抱えてそれを暴かなければならないわけですから。だからこそ奈緒子は強く霊能力を否定するんですよね。

S1では結局この呪い(予言)は当たらなかったわけですが、じゃあこれがTRICKにおいて全く意味をなさなかったかといえばそうではなくて、ラスステにおいて奈緒子は霊能力を理由に命を投げ打つわけですから、半分くらい当たっているように思います。ただ当初からラスステの構想を練っていたわけはないので、S1においては上田の言う通りただの「彼女の負け惜しみ」だったのかもしれません。

(3)上田と山田

奈緒子は貧乳に悩んでいることが発覚し、上田は巨根であることが発覚するという、超絶どうでもいい情報を視聴者は得るわけだけだが、「どうでもいいことをずっとコンプレックスにしているマジシャンと科学者っていうのはいい温度差」らしい(トリック座談会より)。これ最初は全然気にしてなかったし「本当にいるのかこの設定…」とすら思ってたんですけど、上田が奈緒子に心を開くために結構重要だったんだなと劇場版1(以下「劇1」)を見たときに思った。

上田、プライドが高いのは十分に本編から分かるんですが、基本的に我々が見ているのは奈緒子と一緒にいる上田なので、見栄っ張りだけど弱虫でポンコツで可愛い上田。でも劇1で友達といる時の上田って本当嫌な奴なんですよね。これは上田が超一流の知識人たちと対等に渡り歩くためのペルソナで、大学の教授レースを勝ち抜くためにも弱みを見せないようにかなり虚勢をはっていたんだと思う。これがTRICK世界で生活している人たちが見ている上田。でも、奈緒子には巨根っていう超どうでもいいコンプレックスが最初の段階でバレちゃってるんですよね。しかもこの超どうでもいい事をコンプレックスにしていること自体が結構恥ずかしいことで。これがバレてしまった以上、上田の過剰とまで言える見栄は奈緒子の前ではもう無意味。だから奈緒子の前ではポーズとしての見栄は張るものの限りなく自然体でいられる上田。まぁ奈緒子に弱みを握られたところで、彼女が上田の地位名声に傷をつけられるほど影響力はないし、自分の領域には全く入ってこない人間だと見切っているとも考えられるけれど。でもとにかく奈緒子は上田をからかうことはあっても本気で傷つけようとしてくることはないからね。

 

あと、全編通して「えへへへへ!」っていう変な笑い方ばかり印象に残っていたので、初期設定を忘れていたのだけれど、「生まれた時から笑ったり冗談を言ったりするのが苦手だった」でした。冗談を言うのも苦手だった奈緒子。冗談に関しては上田といる時には結構連発しているので、23年間いくら頑張っても苦手だったものが上田に出会って変わっていったと考えるとこう…心にくるものがある。

 

 

ep.2 まるごと消えた村

(1)雑感

しぶしぶ上田に着いてきた奈緒子、「あのアパートにいたくないんです」辺りまでだいぶテンション低かったのに、矢部が登場して以降結構楽しそう。上の着替えだけ持っていくという旅行の荷物を減らす基本テクを持ち合わせている奈緒子(以降貧乏設定の辻褄合わせのために外出中に衣装が変わることがほぼないので貴重な回)。本気である。矢部に「おう、元気か?」って声をかけたの、奈緒子なりの人との距離の詰め方というか仲良くなろうとしているんだろうけど、これ友達できないだろうな…と思った。不愉快とまではいかないがちょっと苦手かな…という人物像作るのが上手過ぎる。奈緒子のステージが埋まらないのも、こういう微妙に空気が読めない感じとかサービス精神に欠けるところとかそういう部分にあるんだと思う。

(2)ミラクル三井と山田

おそらくここで初めて奈緒子は世の中には人をだますつもりで霊能力者を演じている人ばかりではないということを知るんですよね。基本的にこの頃の奈緒子がインチキを暴くのは「ずるい」と思っているからだと思う。母の泉でも「超能力者って手品師と違って言い訳できるからずるいんですよ。」って言っている。それがだんだん「霊能力があったら困る」になって、奈緒子は不安と戦い続けることになる。

残酷なのは、奈緒子の父である剛三によってミラクル三井は1度その人生を狂わされたのに、今度は奈緒子によってインチキが暴かれその結果命を絶つこと。山田家がミラクル三井に及ぼした影響は大きい。ホラー映画だったらとっくに呪われているレベル。

そして、ep.1と同じように息を引き取る前に

「私は本物の霊能力者を知っている」

という意味深な言葉だけが奈緒子に残されるという展開。「誰っ?…どこにいるの?」と奈緒子が聞き出そうとするのもビッグマザーの時と同じ。居場所を聞こうとするのは多分父の代わりに自分がインチキを暴いてやるっていう気持ちからだとは思うんですが、ep.3の美幸の存在によって奈緒子自身が自分を信じられなくなっていく気がする(ep.3 美幸と山田パートに書きます)。

(3)上田と山田

この回は2人のお互いのスタンス確認だったなと思う。

「どれだけ心配してたか分からないんですか?」

「なぜ分かるんだ、今初めて会ったんだぞ」

けっこう簡単に見捨てることもあるけど、いなければいないで心配はする奈緒子。基本に自分中心に動く上田。

 

それから、男女の生み分け方を成人男性と見る成人女性という画面、非常にカロリーが高い。極めつけには上田が私見についてかなり具体的に述べ出すという。カオス。お互いを異性として欠片も意識していない感じがよく出ている。

 

 

ep.3 パントマイムで人を殺す女

(1)雑感

とうとう自分の結婚相手を選ばせるために奈緒子を呼び出す上田。この回は上田が奈緒子に事件を持ち込むのではなくて、シンプルに上田と奈緒子が話しているところに事件が飛び込んでくるパターン。あとすっごい「セックス」って言わせるじゃん…って思いましたね。

そしてサブストーリーとして展開される里見さん訪問パートめちゃめちゃ良いバランスで好みだった。パンツ1枚で家の中を歩く上田を見たら里見さん発狂案件で映像としてもすごくおもしろかっただろうに、そうしなかった公式。どういう意図でそうしなかったかは分からないけれど、「部屋貸して下さい!」みたいな少女漫画展開(そうか??)でこれ以上ラブに振り切らないでいてくれたバランスがすごく良かった。里見さん、奈緒子が嘘をついていることに気付いてはいたけど、嘘をつくために部屋を貸してくれる人が周りにいるっていうだけで安心したんじゃないかなと思う。ただ、奈緒子は自宅に手紙が届いている時点で住所バレてるんだから諦めな……

(2)美幸と山田

美幸がめちゃめちゃ薄気味悪かったし、最後妹を殺してまで罪を逃れようとするの、テレビ画面割りたくなるくらい胸糞悪かったんですけど、彼女一応被害者なんですよね。

「不思議なことを不思議なまま受け止める、その方がずぅっと豊かなことじゃないのかしら」

父親を殺された彼女(達)がこれから前を向いて生きていくためには偽霊能力者になってでも復讐を遂げるしかなかった。美幸の言うことにも一理あるんですよね、殺人はダメだけれど。これに対して奈緒子は視聴者もびっくりするくらい感情をあらわにする。「霊能力を使って人を殺す?それがあなたの言う豊かなことなんですか。」と、ここまでは至極まっとうな批判。「霊能力なんて、絶対に存在しない!」と続くんですが、微妙につながらなくないか?と思った。唐突というか。殺人がいけないのであって、ここで霊能力を否定しなくても別によさそうですよね。美幸に向かって言っているけれど、父親の死と極めて近いところにある霊能力による殺人に結構センシティブになっている奈緒子自身が自分に言い聞かせていたように思う。

そして、(3)上田と山田 パートでも書いているのですが、奈緒子は全てが終わった後屋上で上田に「今度もまた本物の霊能力者に会えなかった」って言ってるんですよ。奈緒子は霊能力を否定しながらも頭の片隅にビッグマザーの言葉がこびりついている。もし本物だったらまさにその人が父親を殺した人物であり、奈緒子自身を殺すかもしれない人物だということになってしまうから何としてでも「インチキだ」と証明しなくてはいけないという切迫感があるんですよね。非常にネガティブな動機によって奈緒子は事件に向き合うことを余儀なくされている。

 

「父親を殺された」という点で奈緒子と共通点がある美幸、本編では”あの矢部”が怒るくらい本当に許しがたい人なんですが、シナリオ段階ではちょっと違って、美幸と奈緒子を分かりやすくリンクさせていた。美幸は矢部に連行される直前(ここまでの流れも少し違うが)、奈緒子に向かって

「誰だって同じことするのよ!お父さんが殺されたと分かったら復讐を!きっとあなただってッ!」

って叫ぶんですよ。これ読んだとき鳥肌立った。

あんなにお父さんが大好きで、お父さんを追いかけてマジシャンになった奈緒子。このセリフがあるなしにかかわらず、奈緒子が美幸から受け取ったものは同じで「父親を殺された者はその犯人と対峙したとき殺人を犯すかもしれない」という恐怖が奈緒子の中に生まれた。美幸は奈緒子自身だったかもしれないから。

この回から奈緒子は「父親を殺した霊能力者に殺されるかもしれない」という恐怖に加えて、「自分がその霊能力者を殺してしまうかもしれない」という恐怖を背負って生きていくことになってしまったんですよね。

これ、なんで美幸がこんなことを言うはずだったのかなと考えていたんですけど、奈緒子が美幸に首絞めのパフォーマンスについての推理を披露するとき「マジシャンだった私の父が、よくこんなこと言ってました。」って言ってるんですよね。父親を殺された美幸にとっては結構地雷だったんじゃないかなと思う。美幸は奈緒子の父が殺されてるなんて当然知らないし、むしろ父との思い出を語る奈緒子はさぞかし幸せそうに見えたんじゃないだろうか。本当些細な一言で人って深く傷つくんですよ。『美しい隣人(中の人が意味わからないくらい綺麗なドラマ)を思い出しました。

シナリオ本の情報ここで手に入ったからいいや~みたいに購買意欲が下がったら嫌なので補足しますが、これ以外にも結構発見があるので、購入を予定している方はその意思を曲げることなく購入してくださいね。

(3)上田と山田

繰り返しになりますが、奈緒子は美幸の存在によって相当傷ついたわけです。

「もし本物の霊能力者に出会ったら、私もあの2人のように、父の復讐をするかもしれません」と恐怖を吐露する奈緒子に上田は「残念ながら君が復讐することは不可能だ。なぜならば、この世にはニセモノの霊能力者しか存在しない」と返すんですよ。

個人的に、いつも言っている言葉の意味が変わる作り方がものすごく好きなんですが、まさにこれそういう場面なんですよね。

いつもは上田の見栄の延長にある「霊能力者なんていない」という言葉、どうせ奈緒子が解決するんだからあってもなくてもどっちでもいいようなものなんですよ(上田ごめん)。でも、今回奈緒子に向けられたこの言葉は「君は人を殺さない」という力強いメッセージに変わる。上田こういうところある。だから好き…

やむ落ちの情報ここで手に入ったからいいや~みたいに購買意欲が下がったら嫌なので補足s…(以下略)

※「霊能力者なんているわけない」についての考察のようなもの

「里見さんは霊能力を否定してはいない(=肯定しているんだ)」という考察をみてなるほどなと思ったので、私もこの発言の意味について考えてみたい。

TRICKシリーズ、回を重ねていくごとに(主に奈緒子に関する)霊能力者の定義が変わっていく気がするのでわからないのだけれど、ラスステ時点での霊能力者は「みんなのために犠牲になる者」だと理解しています。これを「霊能力は存在するけれど、霊能力者は存在しない」という里見さんの信念に照らし合わせると、「(人より敏感に何かを感じ取れる能力である)霊能力は存在するけれど、それを理由に自分の命を犠牲にする必要がある人なんていないんだよ」ということなのかなと思いました。

ただ、「霊能力者なんているわけないよ」と言っているシーンは、里見さんが自分に言い聞かせている感じの演技演出だったので、私が今考えたような意味合いで発信はしていないでしょう。単に里見さんの言葉だけ借りればこんな感じかな、というお話でした。

 

 

ep.4 千里眼の男

(1)雑感

TRICKシリーズの中で一番平和だった回、だと思う。奈緒子の部屋には上田以外入ったことがないし、上田の部屋には奈緒子しか入ったことがないっていう超ピンポイント超偶然のきっかけからトリックが解け始めたというバカバカしさ。まぁラストが鬱だったけど。子供も容赦なく傷つけていく詐欺師。清々しいまでのクズ。

ともあれ、結構癒しパートは多かった。奈緒子の華麗なコールドリーディングが見られたり、R12くらいの際どいお弁当が出てきたり、「反省!」だったり。個人的にツボだったのは、奈緒子の家の電話に勝手に出る上田。この回で奈緒子に部屋を貸してくれたのが男だったと里見さんは確信するんですよね、多分。表札についてあんな無理やりなやり取りしたらさすがに「上田」という名前は覚えているはずなので(やむ落ち)。というか母親がセッの心構え教えてくれる状況めちゃめちゃカオスで笑える。仲がよろしい。

(2)桂木と山田

運命と向き合う奈緒子には小休止的な回だった。最初から霊能力を疑う余地もなくインチキだって分かっている感じだったし。この回は奈緒子達が霊能力を暴くことに懐疑的になりつつある視聴者に暴くべき霊能力を提示してくれたような気がする。全てを失った人にとっての拠り所として霊能力の存在は救いになりうるけれども、そこに付け込んで財産を巻き上げるのは弁解の余地もなく罪だよねという。

(3)上田と山田

上田と奈緒子も今回過去の3つの事件よりかなり軽い気持ちでインチキを暴いていたと思うんですよね。でも彼らは自分たちがほんの遊び心で暴いた霊能力が幼い子供に絶望を与えることになったことを知ってしまうというかなりのトラウマ案件。でも、表情を変えずただ立ち尽くす上田と奈緒子を映すことで、視聴者側がどうとでもとれるようになっているのがすごくよかった。どの程度彼らに傷を与えたのか、はたまたそこまで気にしていないのかあんまり読めない。

でも基本的にこの2人母の泉で「本当にあいつらを救おうとしたのはどっちだ?」って言われた後でも結構楽しそうに帰ってる(やむ落ち)ので本当にあんまり気にしていないのかもしれない。

 

 

ep.5 黒門島

(1)雑感

冒頭のカリボネのやり取り最高に好きなんですよね。これ一歩間違えればめちゃめちゃ気持ち悪いシーンになってしまうのに、2人の演技と演出によって「変なやり取り」にとどまるっていう。黒門島での出来事については思うところがあり過ぎるので下に書きます。

(2)カミヌーリとしての山田

カミヌーリや島での覇権争いについては私があまりよく理解できていないので整理しながら考えていきます。

剛三の死から奈緒子が黒門島行くまでの流れ

もうややこしいので上田が里見さんに言った言葉をそのまま理解して、一連の流れは里見の復讐説を採ることにする。

次男三男が鍵を盗んだ→鍵を里見が見つけたor次男三男に渡された→ただ復讐をするのではなく、インチキを暴くという剛三の意思ごと引き継いで奈緒子に託すために奈緒子の箱に鍵を入れた(パスワードは母親なら知っていそうだし、奈緒子が好きなもので大体検討がつく)→奈緒子が発見し父親を殺したのは自分だと絶望 という感じだろうか。

里見さん怖いわ。奈緒子のこと大事に育てているし愛しているのもわかるけど、ちょっと残酷すぎやしないかい…?ってなった。特に「鍵を持っている人物がお父さんを殺した犯人」って奈緒子に気付かせてからの温度差がしんどいよ。ガラスだったら割れてる(?)

カミヌーリのスタンス確認

カミヌーリ(=巫女)の家系は代々島のために子供をたくさん産むことがその役目。同時に島の守り神的存在でもあり、島が平穏であるのはカミヌーリの霊能力によるものだと理解されていた。カミヌーリは母であると同時に島の守り神でもあった。

次男三男は結局何がしたかったのか

・まず奈緒子を黒門島に呼ぶ前の事情整理をします。

次男三男はシニカミが災いではなく宝であることを知っていた(元男談)。彼らが宝を独り占めするためにはいち早くそのヒントを得る必要があった。本家の板がそのヒントであることは知っていたが、里見が島を出て行ってしまったためもう一つのヒントがわからない。剛三がいなくなれば里見が帰ってくると考えた彼らは剛三を殺した(TRICKパーフェクトブックより)。

・次に奈緒子を黒門島に呼ぶ理由について検討。

おそらく里見が黒門島に戻ってくることはないし、仮に戻ってきても自分たちに「焛」の文字を教えてくれる可能性は低いから、洗脳可能な奈緒子を呼ぼうという考えなのだと思う。結局宝のためだったっていう奈緒子の最後の謎解き通り。

元男と結婚する意味

ただここで1つ疑問があって、元男は「代々受け継いでいるものを(次男と三男が)手に入れればあんたは殺される」と言っているところ。次男三男が宝だけが目当てなら、邪魔な奈緒子は死んでも構わないというのは分かる。でもそしたらわざわざ洗脳までしなくても、拷問をして聞き出せばそれで済む話ではありそう(最終手段として実際拷問しようとしてたし)。元男と結婚させようとする意味はどこにあったんだろうか。

次男も三男もカミヌーリの能力を全く信じていなかったわけではないから元男と奈緒子に儀式をさせたということも考えられるけど、そうするとやっぱり宝のヒントが分かれば奈緒子が殺されるというのは矛盾することになってしまう。シンプルに奈緒子が黒津の分家と本家の覇権争いに巻き込まれたという理解で良いのかもしれない。分家(次男三男)は財産が欲しいだけの集団かもしれないしね。

「島はどうせ死んでいく。(中略)次は何を造る?何を壊す?

散々人を傷つけておいていっちょ前に批判だけはする男、次男。島を守る存在であることはまぁ信じているというスタンスなのか?じゃあ奈緒子大事にしろよな!!!!(モンペ)

奈緒子は霊能力者なのか

霊能力者であるか否か論争があるのは知っているし、公式が霊能力について明言していない以上「絶対」というのはあり得ないんだけど、奈緒子霊能力者であってくれ。というかこれで霊能力者じゃなかったら、普通の女の子が小さな島のお家騒動に巻き込まれて、背負わなくていいはずのものを沢山背負うという悲しい話になってしまうので。霊能力があるなら、あぁ人と違う運命を背負って生きていくのねと理解するので…

奈緒子が背負ったもの

何度も繰り返しているのだけれど、これまで奈緒子は①自分は本物の霊能力者に殺される ②父親を殺した霊能力者を自分が殺してしまうかもしれない という不安を抱えていた。今回、父親を殺した一応の犯人を目の前にしても殺すことはしなかったので②について奈緒子はこれ以上不安にならなくてもよくなった。ただ、それとは引き換えに、今回霊能力者に仕立て上げられたことで、「自分は霊能力者かもしれない」という最も大きな問題を抱えることになってしまったんですよね。いくつかはインチキだと証明できたけれど、枯れた花が生き返るとか上田の傷かすぐに治るとか、説明できない問題は残されていて。そういうちょっとした違和感のようなものは自分の能力を疑うには十分な材料だと思う。

だから彼女はこれから自分の能力に関することはどうしても否定が出来なくなってしまう。コロッと騙されてしまう。苦しい。

(3)上田と山田

最後に向かう場所が上田の研究室なんですよね。手品を上田に披露するんですが(やむ落ち)、島に向かうことを決めた奈緒子にとってこれが最後のマジックになることはわかっていたはずで。マジシャン人生の締めくくりの舞台を上田の研究室に選んだという(単にクビになったし披露する場所がないという可能性も全然あるしむしろ高い)。

「上田さんと色んな所に行ったこと、後悔してないですよ。ほとんどなかったけど、楽しかったことも少しはあったような。」

この仮定はTRICK自体の根幹を揺るがすものなので本来成立しないんだけど、上田と奈緒子が出会っていなければ、奈緒子はいつまでも「大好きな父親は不慮の事故で亡くなった」と信じていただろうし、「自分が霊能力者に復讐するかもしれない」なんてこと考えなくてよかったんですよ。これだけ悩んで傷ついたとしても、上田は奈緒子にとって「会えてよかった」人なんですよね。冗談を言うのが苦手な奈緒子が上田相手なら冗談を言えるようになったし、上手く笑えない奈緒子が少しだけうまく笑えるようになった。友達の少ない(いない?)奈緒子にとって、上田次郎という人と触れ合う時間そのものが大切だったんだろうな。

ただ、仮に上田と奈緒子が出会っていなかったとしても、次男と三男が奈緒子に会いに来ていたことは確かなんですよね。彼らは宝が目当てなんだから来る日には確実に地図を手に入れなければいけないし。そうすると、奈緒子の行く先の黒門島に当然上田は来ないわけだから、奈緒子は絶望したままカミヌーリになることになり、「焛」の文字を教えた暁に殺されるという本当に悲しい運命をたどることになる(里見さんがたすけてくれるかもしれないけれど)。奈緒子と出会ってくれてありがとう上田。

 

「僕は信じませんよ。この目でそれ(=奈緒子の力)を見るまではね。」

物理学者上田のこの精神が間違いなく今回の奈緒子を救った。心がすさんでいると、多少おかしなことがあっても「まぁいっか、私なんて」みたいな思考になるんですよね、まさに黒門島での奈緒子。でも上田は諦めようとする奈緒子に「いいかげん目を覚ませよ」と腕をつかんで引き戻す。上田がこれから先も奈緒子の霊能力を否定するのは、奈緒子の力を見たことがないから。だからこそ、奈緒子の力を知った時それを否定するのは彼のポリシーに反するからラスステの洞窟であぁ言ったのだなと今これを書いていて思いました。

 

長くなりましたが、第1シリーズについての考察は以上です。これから先奈緒子は「本物の霊能力者に殺されるかもしれない」という不安と「自分は霊能力者かもしれない」という恐れを背負いながら向こう14年間生きていく。そういう確認をした記事でした。最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございました!!